マンモの有用性を否定した乳癌検診の新ガイドラインで大論争
米国政府組織である予防医学特別作業班(USPSTF)による乳癌検診に関する新ガイドラインが、米医学誌「Annals of Internal Medicine(内科学)」11月17日号に発表された。
40歳以上の女性は毎年1回マンモグラフィ(乳房X線検査)による乳癌検診を受けることが長年推奨されてきたが、新ガイドラインはこれに反しており、さまざまな議論を呼んでいる。
予防医学特別作業班によると、このガイドラインは、乳癌の早期発見などの利益と偽陽性によるリスクを比較分析した結果であるという。
この新ガイドラインの内容は以下の通り:
- >40~49歳の女性がマンモグラフィを定期的に受ける必要はない。40歳以上の女性が乳癌の定期検査を開始する最善の時期については、医師に相談して個々に決定する。
- 50~74歳の女性は2年に1回の割合でマンモグラフィによる乳癌検診を受けることを勧める。
- 75歳以上の女性については利益とリスクをはかる十分なデータがない。
- 乳房自己検査により死亡率が軽減されるとの証拠はないため、自己検査の指導をする必要はない。
- 40歳以上の女性が臨床乳房検査(視触診による乳房検査)を受ける価値を評価する十分な証拠はない。
このガイドラインに対し、米国癌協会(ACS)および米国放射線医学会(ACR)は強い異論を唱えている。
米国癌協会のOtis W. Brawley博士によると、同協会は予防医学特別作業班が検討したものと同じデータに加え、予防医学特別作業班が検討していないデータについても検討した上で、引き続き40歳以上の女性はすべて年1回のマンモグラフィおよび臨床乳房検査を受けることを推奨するとの見解を示している。
また、米国放射線医学会のCarol Lee博士もこれに同意し、今回の勧告はコスト削減が目的ではないかとの疑問を呈しているが、予防医学特別作業班はこれを否定している。
同誌付随論説を執筆した米サンフランシスコ退役軍人医療センターのKarla Kerlikowske博士は「40~49歳の女性については、一等親血縁者に乳癌患者がいるなど、特にリスクの高い女性に的を絞るべき」と述べており、50~74歳の検査頻度を2年に1回とすることについても、それが最善であるとの考えを示している。
一方、米アルバート・アインシュタイン医科大学(ニューヨーク)の婦人科医Judi Chervenak氏は、個人に適した定期検査については医師に相談する必要があるとしながらも、マンモグラフィは触診でわかる前に癌を検出できる有益な乳癌検査であり、多くの女性が受けるべきとの見解を述べている。
米国立衛生研究所(NIH)元所長の元所長であるBernadine Healy博士は「40代での乳癌は非常に悪性度が高く転移が速い。このガイドラインに従うことで、乳癌で死亡する女性を増加させることは明白であり、無視するように強く主張する」と述べている。
米国保健福祉省(HHS)長官のKathleen Sebelius氏は、予防医学特別作業班のガイドラインでこれまでの政策が変わるわけではなく、「もしこのガイドラインによって保険会社がマンモグラフィの費用の補償範囲を変えるようなことがあれば非常な驚きである。マンモグラムは生命を救う重要な手段であり続ており、これまで毎年受けていたなら続ければよく、個々の状況を医師とよく話し合って判断するように」と述べている。
なお、医療保険会社の多くは、米国癌協会、予防医学特別作業班を含めて各学会の指針を利用して保険適用範囲を作成しているが、今回の勧告によって適用範囲の変更が急がれることはないとのこと。